あと、書ける時に書いておきましょう

ってコトで、スーツを買いに行った後は、「BLOOD+」 まで結構暇があったということで、また何か書評で取り上げられそうな本は無いかと探してみたところ、そーいえば一昨日の書評で取り上げた 「ぼくらは虚空に夜を視る」 のナイトウォッチシリーズの第2巻・第3巻はまだ取り上げて無かったよなぁ、などとふと思い立ちまして。
まぁそんなワケ(?)で、本日の書評では、一昨日の「ぼくらは虚空に夜を視る」 に引き続き、上遠野浩平氏のナイトウォッチシリーズの第2巻、「わたしは虚無を月に聞く」 を取り上げてみたいと思いまっす。わたしは虚夢を月に聴く (徳間デュアル文庫)

月に魅入られたなら夜空を見上げ、人に見入られたなら心の闇を見詰めよ

えー……まぁ、これまたいつものように、自分で書評で取り上げる本を決めたクセにその言い草はなんだ、ってな話になってしまうんですが、実はこの作品って、なかなか他人にはオススメし難い要素が多分に含まれてたりする作品だったりするんですよねぇ(苦笑)。
あ、ちなみにここで言う“オススメし難い”というのは、別に内容そのものというか作品テーマとかについてではなく、作品の在り方について、とでも言いましょうか……まぁもうちょっとぶっちゃけたコトを言うと、実はこの作品ってば、ナイトウォッチシリーズの第2作目ということで、世界観を知るという上で、前作の知識がある程度は必要になってくるのは勿論のこと、別の出版社の別のレーベルである、電撃文庫で展開されている“ブギーポップシリーズ”の知識までもがある程度必要になってくる作品だったりするんですよ(汗)。
一応は、“ブギーポップシリーズ”の知識の方については絶対に必要というワケではなく、知らないなら知らないで、それなりにこの作品を楽しむという程度なら出来るとは思うんですが……それでもやっぱり個人的には、「VSイマジネーター」 の話までは読んでおいた方が、こちらの作品をより楽しめるよなぁ、とか思う次第でして。


まぁ、そんな前フリというか前準備についての話はこれくらいでさておきまして、以下はこの作品についての簡単な説明なんですが。
とりあえず、この作品の前作に当たる 「ぼくらは虚空に夜を視る」 との大きな違いとしてまず最初に挙げられるものに、前作の 「ぼくらは虚空に〜」 が、21世紀的な夢の世界でのエピソードを除けば、宇宙空間での虚空牙との戦いがメインの話であったのに対し、こちらの 「わたしは虚無を〜」 の方では、物語の舞台は宇宙は宇宙でも月面 (と夢の中の世界) だけに限定されており、またその戦いの相手というのも、虚空牙ではなく同じ人類同士での争いとなっている、という点が挙げられるでしょう。
また、前作が文庫本丸々一冊を使って1つのストーリーが展開していったのに対し、こちらの作品の場合は、それぞれの章がお互いに影響を与え合っている・前章での出来事がこの章での出来事の要因となっている、みたいな繋がりこそあるものの、全体の雰囲気としては、一冊の長編というよりは、それぞれで主人公や舞台が微妙に異なる各章毎の話・短編が集まることで一冊の本になっている……とでも言うべき状態になっているというのも、前作と異なる点でしょうか。
あ、あと当然のように、前作はあまり他の作品による予備知識が必要ではなかったのに対し、こちらの作品は、前作の知識に加え“ブギーポップシリーズ”の知識までもがある程度必要、ってのも結構な違いですね(^^;


……と、とりあえずこの作品の説明として前作との違いってヤツを簡単に挙げてみましたが、もしかしたらここまでの説明を読んだ方の中には、「じゃあ前作と随分と違う感じ・雰囲気の作品になっているのだろうか」 と思われる方もいるかも知れませんが、決してそんなことはなかったりしまして。
確かに、同じ世界設定こそ持っているものの、舞台も大半の登場人物も異なるということで、作品の持つ雰囲気まで違うのでは、と心配されてしまうかも知れませんが、このシリーズのメインテーマであろうと思われる、“人の心”というテーマについては、分析のポイント・視点こそ異なるものの、それを主題に扱っている・他のシリーズよりもそれを前面に押し出しているという点に違いは無く、そういった点からしても、間違いなくこれは前作と同じシリーズだと実感できる状態に仕上がってると言えるでしょう。




あるいは、これは私の読解力が不足している・作品をしっかり味わってないからなのかも知れませんが、前作に引き続き、この作品もまた、メインで扱われているテーマというのは突き詰めてしまえば非常にシンプルなテーマなのかも知れない、と思えるこの作品。
上遠野氏のいつもの“あとがき”などが非常に好き・ある意味本編よりも面白いことがある(苦笑)と思う自分にとっては、これまた前作に引き続き、非常に面白い作品であるように思えました。
恐らくは、シリーズ物の第2作目ということで、この作品から真っ先に手を付けるという方はいない(汗)かとは思うのですが、とりあえず、まずは前作を読んでみて上遠野氏の文章や作品が面白いと思ったという方は、世界観等が大分違うので困惑してしまうかも知れませんが、それでも、電撃文庫から出ているブギーポップシリーズを (最初の2〜3作程度で良いので) 多少読んでみてからこの作品を読んでみると、前作からそのまま読み進めてしまう以上に、より一層面白く読めるのではないでしょうか。
もしくは、ブギーポップシリーズは読んでいるものの他の作品にまでは手を付けていないという方に関しましては、一度は完全に退場したかと思われたのに、最近になっていくつかのブギーポップ作品において要所要所で顔を出している、あのイマジネーターの彼女がこっちにも出張(苦笑)しているので、あの彼女の思想やらキャラクターやらに惹かれるものがあったという方は、いっそこれを期にこちらの作品に手を出してみる、なんてのも良いのでは?


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