同じSFにも色々あるやーね

ガンダムもある種のSFならば、こちらもまたSFなワケで……ってゆーか、こっちはガンダムに比べれば、かなりSFっぽいSFだと思いますけどね(汗)。
ってコトで、先日の日記でもちらりと触れた、ここ最近読んでいたSF小説について、今日は書評を書いてみようと思います。ちなみにその作品というのはコチラ、メイルゲームやTRPGに詳しい方にとっては、小説家というよりは、「蓬莱学園グランドマスター」というコトでお馴染みの、新城カズマ氏の作品で、「サマー/タイム/トラベラー」第1巻でっす。サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

時を駆け抜けた、あるいは浪費した高校時代

時間旅行をしてみたいとか、(ギャンブルとかで勝つためではなく単純に知的好奇心で)未来を知りたいとか、そんな風に未来に夢を馳せることが無くなったのは、果たしていつの頃からだろうか。恐らくそれは、高校を出て、肉体の年齢だけは大人になり、一日、あるいは一ヶ月、もしくは一年という時の流れが実は早いものだということに気付いた頃のことなのだろう。
つまりはまぁ、わざわざ未来を夢見たりせずとも、自分が未来に進んでいくことは止められない・戻ることは勿論出来ないということに、その頃改めて気付いたワケで。そーすると、夢見ることは必要ではなくなり、むしろ、どーやって限りある今を生きるのか、みたいなことの方が重要に思えてきたりするワケで。


……などという妄言が、この作品を読んでいたら脳裏にふと思い浮かんだりしました。あ、ちなみに↑上の文章は本編とは全く関係ありません(苦笑)。
まぁ、そんな妄言はさておき、作品本編についてですが。……ある年の夏、主人公である高校生のぼく(卓人)の前から、一人の少女が時の彼方へと駆けて行ってしまった。これは、タイムマシンもタイムパラドックスも無い、けれど、間違いなく起きたタイムトラベルについての話……というのが、本書の冒頭に書かれている文章の要約なんですが。
……第1巻というだけあって、作品全体の印象としては、何だか伏線を張られまくっただけ、という感じなんですよねー、まだ(^^;
時を駆けて行ってしまった少女・悠有が初めてを行った時の様子とか、それを議題にして、高校生らしからぬ聡明な会話や計画を繰り広げる“ぼく”たちの様子や、あるいは最近連続して起きている奇妙な事件の話題など、それなりに読んでいて読み応えのあるシーンは多いものの、最初から“次巻に続く”が予定されていた作品らしく、読み終わってもどーにもスッキリした感が無いのも事実だったり。


……じゃあ、何でそんな本を取り上げたのかと言いますと。
大きな話の流れ・ストーリーの面については、“次巻に続く”の関係で、確かにスッキリした読後感とは言い難いものの、文章や描写、あるいは、ここ最近起きた様々な事件・出来事に対する“ぼく”たちの感想を語らせる“物語のリアルタイムさ”ってのが、マジでイイんですよ。
“これから何かが起きそう” といった雰囲気や、これから起こる出来事の結末を知っている“ぼく”の何とも言えない悲壮感等にについては、こーゆー待たされる文章が好みか否かの問題もあるので、敢えて評価は保留いたします(ちなみに私は結構好きかな)が、それを抜きにしても、“ぼく”たちの会話や描写などが如何にも青春していて、SFの中でも、いわゆるジュブナイル的な要素を併せ持つ作品として、かなり面白く感じましたねー。
また、タイムトラベルという事態に対して、ある程度は深刻に考えてはいるものの、自分達が他の子どもたちよりも聡明な面々だと知っているからか、敢えて問題(というか深刻さ)の本質には触れず、正に若者が自らの手柄を見せびらかすように、自分達が持ち寄った知識でこの事態を分析しようとする様なんかも、随所随所での“ぼく”のセリフが、“これから起こるのは暗い事件だ” みたいなことを暗示しているだけに、読んでいて、軽い陰鬱さというか取り返しの付かない悲しさは感じるものの、それも含めて若さの証拠だと思って読むと、青春小説としてもなかなか良い出来であるように思いました。
そして、作品の要所要所で、“ぼく”たちがここ最近 (私達が生きているこの現実の世界で) 起きた様々な事件・出来事に対してコメントを述べるような場面があるんですが、これがまた実にイイんですよー。大人的な、どこか割り切った・醒めた見方をするのではなく、しかし、大人が子どもに対して一般的に思っているような、単純だったり無関心だったりするような見方でもない、言うなれば、正に“いかにも聡明な子どもが抱きそうな感想”ってのを、“ぼく”たちは述べるんですが、これがまた上手に、SFということでついフィクション世界に飛び去ってしまいそうな作品に適度なリアルっぽさを与えていて。
うーん……。どーにも、この作品の魅力を伝えるだけの言葉が見付からず、ここで上手く説明することが出来ないんですが、とにかく読んで面白いことだけは間違いなしですよ、ええ。


SFということで、もしかしたら中には、読む以前の問題として作品を敬遠してしまう方もいるかも知れませんが、この作品の場合、他のSF作品の名前が列挙されたりそれを皮肉ったりする場面はあるものの、その原作を知らなくても読めるシーンばかりなので、その点については、完全に心配は不要となっております。……ってゆーか、私自身、読んでてかなりの数の未読の作品名を見かけることとなったし(^^;
また、7月には続きとなる第2巻が早くも出版されるとのことなので、もしどーしても“次巻に続く”的な伏線が嫌いだという方は、あるいはそれを待ってから読むというのもアリかも知れませんね。でも個人的には、この巻だけでも十分面白さは理解できると思うので、売り切れたり品切れになる前に、早く買って読んだ方が良いと思うなーみたいなー(笑)。


→ 合計:023冊(小説15冊 / 漫画4冊 / その他4冊)