思ってたよりも遅くなってしまいましたが

はてな年間100冊読書クラブ」 で開催されている、「夏の100冊企画」 ですが、ようやく書評を書く時間が確保できたので、2冊目の課題だった、森絵都先生の 「アーモンド入りチョコレートのワルツ」 を読了したことを、ここにご報告致します。アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)
いやー……実は今回も、読了してから書評を書けるようになるまでが長かった!(苦笑) まぁ、これは完全に言い訳ですが、作品自体は水曜の夜あたりには読み終えていたものの、どーにもゆっくりと感想を書く時間が取れなくて、ふと気が付けば、既に日曜の夜だった……という次第でして。
あ、でも、自分でリクエストを出させて頂いただけあって、個人的には凄い好きなカンジの作品だったので、以下の書評も少し丁寧に書かせてもらおうと思います。

心の中から聞こえて来る懐かしい調べと思い出

爽やかで儚い少年の日の夏の思い出を綴った「子どもは眠る」。不眠という厄介な病を抱えた少年と少女との淡い恋の物語である「彼女のアリア」。そして表題作でもある、あるピアノ教室に現れた不思議なフランス人との日々を描いた「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。以上の3つの短編が収められているのが、この本なのですが。
いやはや、3編とも実に面白かったっすよー。何が面白いって、とにかく少年少女の心理描写が実に巧みでして。何ていうか、この作者さんが描く少年少女って、つい大人が少年少女を描く時に陥ってしまいがちな、「子どもはこうあるべき」像とか、「自分はこうでありたかった」像ってのが、あんまり感じられないんですよ。
とにかく、この作品に出て来る子どもたちってのは実に自然体なんです。作品の登場人物だからといって、それほど過激だったり突拍子も無かったりするような行動を取るワケでもなければ、決して人並み以上に意志が強かったりするワケでもない。ごく普通で、何処にでも居そうで、そして何より、何処と無く中学生の頃の自分を彷彿とさせる様な子どもたち。それが、この作品に登場する少年少女たちでして。


そんな彼らが、ふとしたことでこれまでの人間関係に疑問を持ったり、意外なきっかけで知り合った異性に自分でも判別できないような淡い思いを抱いたり、奇妙なフランス人のおじさんの登場によって変化する日々に流され続けてしまう……。
それは決して特別すぎる出来事でもなければ、そこで彼らが選んだ行動もまた特別すぎるものではない。けれど、あるいはそれだからこそ、そんなエピソードの数々に、何処と無く懐かしさや身近さを感じる。この本は、まさしくそんな作品集だと言えるのではないでしょうか。


収録されている作品はいずれも、多分ここでネタバレしたところで、読んで楽しむのには全く影響が無いような作品ばかりなので、本当はここでストーリーとかについてもうちょっと詳しく触れてみても構わないとは思うんですが……まぁ、特にこの作品に関しては、そんなヤボなことは止めておきたいと思います。
ぶっちゃけた話、私がここでうだうだと紹介文なんぞを書くよりも、実際に本屋で一度手にとって読んで貰った方が遥かにその良さが分かる、ってのがこの作品でして(汗)。
私の駄文とかで少しでも興味を持って下さった方、あるいは、中学生の頃の淡く懐かしい日々を思い出してみたいという方は、是非とも一度読んでみては如何でしょうか。正直な話、今回の角川の夏の100冊の中でも、かなりのオススメだと思いますよ。




……ところで、以下は作品本編とはあまり関係の無い蛇足なんですが。
巻末に収録された解説では、この本は「優しい本」であるみたいな解説が為されていますが、私は個人的にはそうは思わなかったりしました。確かに、骨太の優しさという意味では、この作品を指して“優しい”というのも間違いではないかと思いますが、個人的には、ある一定以上の年齢の人にとっては、実はこの本は非常に“怖い”本なんだろうなー……と思いますね。
読んだ人の誰もが自分の中学生時代を思い出してしまう、しかし、もうそれは二度と手に入らない輝きに満ちていた時間だということを改めて痛感させられてしまう作品。ある意味では、その厳しさ・怖さこそがこの作品の本質なのではないでしょうか。
とは言っても、残念ながら私たちの手元にタイムマシンが存在しない以上、私たちに出来ることといえば、この作品が思い出させてくれた懐かしい日々を胸に、未だ“過去”にはなっていない“今”を懸命に生きることぐらいなのかも知れませんが。それでも、それを可能にしてくれるだけの元気を与えてくれるのも同じくこの作品だというのだから、いやはや、読書というのはまだまだ奥が深い。
……っと、何だか最後は支離滅裂気味の文章になってしまいましたが(汗)。とにかく、この本は老若男女や好みの幅をあまり考えることなくオススメできる作品で、個人的には非常に大満足でした、ってコトで(^^;


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