たまには翻訳作品なんかも

ラノベなんかも含めた国内作品に比べると数は少ないものの、時折読んだりするんで、今日はその書評でも。
ってことで、本日の書評はコチラ、エリック・ガルシア氏の「さらば、愛しき鉤爪さらば、愛しき鉤爪 (ヴィレッジブックス)」でっす。

今宵はウィスキーでも葉巻でもなく、バジルを少々

私は基本的には乱読家なんで面白ければ何でも読む方なんですが、どーにも海外の翻訳作品は、向こうの作家の方の文章が合わないのか、はたまた翻訳家の方の文章が合わないのか、つい途中で読むのをやめてしまった作品というのも少なく無いんですが、これはここ数年の中でマジに大ヒットでした。それも途中で投げ出すどころか、ぐいぐいと話にのめり込んで一気に読んでしまう程に。


さてさて、この「さらば、愛しき鉤爪(原題:ANONYMOUS Rex)」についてですが。……はい、改めて読んでみると実に奇妙なタイトルですね(笑)。それも、こんなタイトルをしているのに、中身は探偵小説というかハードボイルドだというのだから驚き。
しかし一番の驚くべきポイントは、この小説の主人公である探偵ルビオの正体というのが、実は人間ではなく、ヴェロキラプトル、つまり恐竜であるという点でしょう!
ちなみに、恐竜が主人公のハードボイルドモノとはいっても、決して時代設定自体は太古の時代でも無ければSFなワケでもなく、ごく普通の現代アメリカが舞台となっています。じゃあ、そんな中で恐竜たちはどうやって暮らしているのかいうと、これが実にユニークなことに、人間たちと共存すべく、わざわざ人間の皮(着ぐるみ)を被ってるというんですよ(笑)。
更には、彼らは酒やタバコはあまり好まないものの、様々なハーブで酔うという設定まで付いているのだから、こんな設定を考えついたエリック・ガルシア氏にはホント頭が下がります。ってゆーか、延々とこの本を読んでいると、探偵のルビオたちだけでなく、今自分の隣にいるこの人も、実は着ぐるみを着た恐竜なのでは……といった奇妙な妄想まで浮かんでくるほど(笑)。あー、読んでたら何だか自分までハーブを齧りたくなってきた(^^;


そして、主人公たちに関する設定はこんなにもユニークであるにも関わらず、ストーリーそのものは至って普通というか真面目。物語のラストに近付くと、事件の核心に迫るに連れて普通のハードボイルドからはやや離れてしまうものの、その途中の調査の様子やセリフ、あるいは主人公ルビオの心の機微なんかは正にハードボイルド。
明日の生活費を手に入れるためには、知り合いの大手調査会社から回された、しがない事件を追わざるを得ない状態にあるにも関わらず、ハーブ中毒(アルコール中毒)の習慣でついすぐにハーブに手を出してしまったり、あるいは、その件に関する以前の過激な調査で一気に信頼を失ってしまっているにも関わらず、ついつい本来の依頼そっちのけで相棒の不審な死について嗅ぎ回ったりと、どれもこれもどこかで見たような設定(苦笑)であるにも関わらず、誰しもがハードボイルドだと認めざるを得ないような設定ばかり。
それでいて、文章の所々に(というには割合がやや多いけど)ユーモアが溢れており、決して文章全体の雰囲気としては重くならず読みやすいものに仕上がっているというのだから、何とも脱帽モノです。加えて、最後にはホロリとくるようなオチまであるってんだから、ホントにどれだけ人をお腹一杯にさせる気なんだか(笑)。


発売当時には“このミステリーがすごい!”にもランクインしたくらいなので、あるいは、主人公が恐竜であるという設定くらいは知っているという方もいるかも知れませんが、もしその中で読んだことがない方がいるなら、是非一度読んでみて損は無いと思います。個人的にはミステリか否か微妙に疑問だけど、面白さだけは折り紙付きッスよー。
あと、横文字の人名は読んでいてどうも……という人も、探偵小説の割にはあまり登場人物は多くないし、普通の名前や外見以上に、恐竜としての素性やら何やらの描写で人物の判別がしやすくなっていると思うので、あまり気構えずとも楽しめるのではないでしょうか。とにかく、(爬虫類である恐竜だけに)“毛嫌い”せずに一読するだけの価値はある一冊ですよ(^^;


→ 合計:007冊(小説4冊 / 漫画2冊 / その他1冊)