そして引き篭もりの産物的に

本日は書評も更新してみたいと思います。……って、100冊クラブの一員の態度しては、こーやって時間がある時に読んだ本について書く・書評を書くというのは決して間違ってないとは思うんだけど……思うんだけど……何故かしら、胸に微妙な虚しさが去来してるよーな気がするのは(苦笑)。


ってコトで、まぁイイ加減このネタを延々と引っ張るのにも飽きた(苦笑)ので、以下は真面目にいつもの書評なワケですが。
本日の書評ではコチラ、先日取り上げた 「メモリアノイズの流転現象」 に引き続き、同じく 上遠野浩平氏の作品で、出版された時期としてはやや古いものの、作品の世界観とか的には結構自分的には好き・オススメな作品、「ぼくらは虚空に夜を視る」 を取り上げてみたいと思いまっす。ぼくらは虚空に夜を視る (徳間デュアル文庫)

届かぬ光に恋焦がれ、今宵もまた夜空に手を伸ばせば

……などと、微妙に意味あり気な小見出しを付けてはみたものの、実際にはこの小見出しは作品内容とは全く関係なかったりするんですが(^^;


で、以下は作品の感想についてなんですが。……んー、何と言いましょうか、実はこの作品って、微妙にストーリーというか粗筋というかの説明がしにくい感じの作品なんですよねぇ(苦笑)。
それでもまぁ大雑把に言うのであれば、

人類が宇宙に新天地を求めて旅立ったある時代。これまで、普通の高校生としての生活を営んでいた工藤兵吾は、自分がこれまで生活していたこの21世紀初頭に良く似た世界というのは実は夢の世界であり、そしてその夢を見ている本体というのは、地球より遥か遠く離れた宇宙において、<虚空牙>と呼ばれる存在たちと戦っているのだと知らされる。
本来ならば、<虚空牙>との戦いで荒む精神を支える夢の住人としての役割しか無かったはずの兵吾だが、彼の代わりに現実で<虚空牙>と戦っている、いわばもう一人の自分の心が戦闘のショックにより死亡した為に、彼は過酷な現実と夢の世界とを行き来する二重生活を余儀なくされる。
だが厄介なのはこれだけではなく、<虚空牙>の脅威にさらされる現実のみでなく、夢の世界にもまた脅威は存在していた……。

……ってカンジになりますでしょうか。まぁ、ホントにかなり大雑把・結構細部を省いた説明ではありますけどね、これってば(汗)。


そして、こうした独特の世界観・設定の妙というのも勿論面白いのですが、それよりも個人的にこの作品が面白いと思ったポイントとして、まぁこの独特の世界観がそうさせるのかも知れませんが、ある意味他のシリーズ作品以上に、この作品においては “人の心” ってヤツが重要視されているって点が挙げられまして。
本来のコア (<虚空牙>と宇宙で戦う戦闘機のパイロット) の“心”は死んでいるハズなのに、深刻なダメージは無いと代打のコアになった兵吾に告げる戦闘機のナビ。夢の世界の生活に“心”が耐えられず、自ら本来のコアとの役割交代を申し出たという夢の世界では同学年の女子生徒。そして、戦いと虚無しか存在しない現実に“心”が絶望することなく、この夢の世界での生活を続けようと思わせてくれるだけの人たち。
こうした“人の心”に関する話題やシーンってヤツが随所に登場したりするにも関わらず、決してそれをメインテーマだからといって前面に押し出しては来ないというか、押し出していたとしても、決して作者の見解ってヤツを一方的に押し付けてきたりはしないと申しますか……まぁとにかく、気持ちの良い、楽しんで読める距離感でそういったテーマが描かれてまして。
あるいは、この作品で描かれてるテーマってのは、突き詰めてしまえば至極簡単なことでしかないのかも知れませんが、それでもまぁそういった結論も含めて、いつも上遠野氏の作品を読む度に、「この人の作品で一番面白いのは実は“あとがき”の部分だよなぁ」 とか思ってしまう(苦笑)自分にとっては、テーマがテーマだけにかなり面白く読めた次第で(^^;


とにかく、このかなり独特なSFな世界観は勿論、それ以上に、上遠野氏が“心”をテーマとして結構直球気味な作品を書いているというだけでも、読む価値は高いと言えるこの作品。
前述の通り、自分のように、上遠野氏の作品で一番面白いのはあとがきだ、と思ってる人は勿論、他の上遠野氏の作品のように別のシリーズ作品 (主にブギーポップシリーズ) との関連付けってヤツがあまり濃く行われていないので、SFに抵抗が無いのであれば、初めて上遠野氏の作品に触れるって人にもオススメしたい作品になってまして。
やや古い作品であり、またレーベルも少々マイナーということで、あるいは入手するのに少し手間取るかも知れませんが、それでも作品の質そのものは今読んでも非常に上質だと思うので、少しでも興味を持ったという方には是非ともオススメですよー。


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