で、正月の締めとして

また仕事が忙しくなるとゆっくり書いてる暇も無いってコトで、本日の更新では、とりあえず書評の追加でもしておこうかと思います。……これ以降、次にまた書評をゆっくり書けるのはいつになることやら(--;
……と、つい微妙にネガティヴ思考に入りそうになりましたが、まぁ気を取り直しまして。本日は、SFファンタジー小説トリニティ・ブラッド」 で一躍名を馳せつつも、一昨年惜しまれつつも夭折された、吉田直氏の作品、「FIGHTER」 を取り上げてみたいと思いまっす。FIGHTER (角川スニーカー文庫)

狼の眼の輝きは、決して猟犬にはなり得ぬのか

とりあえず、例によって大まかな粗筋から説明させて頂きますと。

時に明治十年。西南戦争に向けた動きが水面下で進む中、ある英国商館が何者かに襲撃されるという事件が起きた。しかも、その襲撃現場で目撃されたのは、唯一の生き残りであるその商館の娘をかばいつつ戦う、新撰組沖田総司と、その沖田と剣を交える土方歳三の姿であった。
死んだはずの壬生狼の男達が、何故事件現場におり、そして何故互いの剣を交えていたのか。大久保利通ら政府関係者は、警官・藤田五郎へと名と立場を変えた新撰組の生き残り・斉藤一を派遣しこの事件の調査を始めるが、この事件の裏には、当時の人々の想像を遥かに超えた壮大な陰謀を張り巡らす2人の存在があった……。

……というカンジになるんですが。


いやー……やっぱりアレですね。とりあえず、まぁこれは私個人の好みの話ではあるんですが、明治という日本政治大混乱の時代っつーだけでも十分燃える (まぁ厳密な好みを言うと、明治よりは大正や昭和初期の方が好きなんですけどね(^^;) ってのに、そこに、例えそれが間違った道であっても、それでも最後まで自らの信念を貫いて死んでいった新撰組の面々が蘇って加わって来るっていうんですから、設定からしてこりゃあもう燃えまくるってカンジですよ!(笑)
オマケに、そんな動乱の時代にただ壬生狼の面々が加わるというだけでなく、沖田と土方という、本来ならば既にこの時代には生きていないハズの新撰組の二枚看板(苦笑)同士が登場し、それもただ政府軍と戦うというだけではなく、互いの刃までをも交えるというんだから、これまた嫌が応にも燃えるってカンジで。
更には、そこに今や政府の犬と化した斉藤一までもが加わり、彼は彼なりに、一介の警察官として二人と相対するというのも、こちらはこちらで、沖田や土方が登場するというフィクション性・荒唐無稽さとはある意味対照的に、警察官・藤田五郎としての生き様ってのが見れるのがなかなかに面白くなってまして。


もっともその一方で、本筋のストーリーの展開との兼ね合いの問題からか、沖田と土方が刃を交える理由ってのがイマイチ丁寧に描かれていないというか、どーにも普遍的なものになってしまっていたり、これはあとがきで吉田氏本人も書いていることですが、実は他の新撰組の面々の何人かも作中に登場しているにも関わらず、ほとんど活躍の場が与えられてない等、少々残念な所も少なく無かったりもするんですけどね。
とは言っても、新撰組が夢見た “近代” とは違う発展を遂げたこの明治と言う時代に、とある計画の一環として蘇ることとなった沖田や土方が登場し、そしてその計画と繋がる異形の力と己が剣術の刃を交えるっつーのは、何とも読んでて痛快な面白さがあるのもまた事実でして。
まぁ細かいことを言えば、この後に刊行されたトリニティ・ブラッドシリーズ (以下トリブラ) に比べると、その異形の力ってヤツも原理や道理の説明がイマイチだったり、一部のキャラクター以外はどれも画一的な能力設定になっていてバリエーション的な面白さに欠けるという難点はあったりするんですが。
それでも、この作品が踏み台となってトリブラシリーズが作られたと考えれば、新撰組と言う魅力的なキャラクターが出て来るということも加味すれば、吉田氏のファンやSFファンタジー好きなら十分に楽しめる・読むだけの価値はあると言えるんじゃないでしょうか。


……それにしても、恐らくは十分に闘病した上でのことでしょうし、人の生き死にというのはある種の必然である以上は仕方ないとは思うんですが、これだけ面白い作品を世に生み出していた方だっただけに、未だに吉田氏がお亡くなりになったというのは、ラノベファンとしてはつくづく残念なことですねー……。
一般的には、アニメ化までされたということで、吉田氏 = トリブラ、というイメージが強い (というか、この作品を読むまでは自分もそう思っていた) ようですが、もう8年も前に刊行された作品であるにも関わらず、この作品の最後のオチなんか、ネタバレになるのでここで詳しくは言えませんが、今読んでも普通に通じるというか、思わず鳥肌が立つほどに凄いオチで、この点に限って言えば、この作品の仕上がりはトリブラ以上とも言えるカンジですよ。
とにかく、トリブラ好きや新撰組好きに限らず、SFファンタジーラノベが好きな人ならかなりの確率で楽しめる作品であるのは間違いないので、吉田氏が亡くなったということでこの先いつ絶版になるか分からない(汗)という事情もあることですし、機会があったら一読してみても損は無いんじゃないでしょうか。


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